小樽文学館

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特別展・小樽・札幌喫茶店物語

開館時間:午前9時30分~午後5時 入場料:一般500円 小・中学生50円

特別展・小樽・札幌喫茶店物語

特別展・小樽・札幌喫茶店物語

 客にコーヒーを提供する、いわゆる喫茶店が札幌に登場したのは大正末頃だが、昭和3年北2条西3丁目に開店した「ネヴォ」が喫茶店らしい喫茶店の第一号といわれている。その名からしのばれるように、ここは前衛的な美術家、詩人らのたまり場でもあり、知識人と労働者がコーヒーを挟んで議論する、という、それまでにありえなかった空間となった。ここには小林多喜二もひんぱんに出入りしていて、その色紙が長く店に飾ってあったともいわれている。  ほとんど間をおかず、小樽にもつぎつぎに喫茶店が開かれた。小樽でもそこは画家や文学者、その他知識人、さらに学生やサラリーマンらの気の置けない交流の場として重要性を増していった。この時期、知られている喫茶店として、小林多喜二や伊藤整が思想研究、あるいは文学仲間の会合に使った「越治」や「カール」がある。画家国松登氏が電気館通りの「夢」のマスターになったのは昭和6年、その二階が「裸童社洋画研究所」となった。裸童社創設者の一人でもあり、詩人でもあった国松登氏こそ、典型的な「喫茶店芸術家」であったといってもいい。「夢」は2年後国松氏から小林光氏に渡り、「光」と改名された。「光」は、往時の喫茶店の面影を濃厚に留める、国内でも稀な喫茶店として今日でも営業を続けている。また並木凡平に師事した口語歌人和田義雄氏が花園町松竹座前に「茶房・銀と金」を開いたのは昭和12年、和田義雄氏はその後児童文学者として活動しながら長く喫茶店経営にもかかわり、『札幌喫茶界昭和史』その他の名著を残した。  世情に翻弄された時期はあるものの、喫茶店は現在にいたるまで庶民が友人どうし、また一人でもくつろげる、市井における数少ない空間であり、また時の流れそのものを味わいながら、芸術や社会について会話を重ねることのできる場でもあった。その点において、いまこの文学館が指向している方向とも共通するものである。  今回の展覧会は、たくさんの学生、詩人、美術家、そして普通の市民が出合い、語り、別れていった小樽・札幌の喫茶店の歴史をふりかえるもので、会場に昭和8年開業当時の「光」喫茶店の一部を再現し、往時の喫茶店の道具やマッチなども展示する。また、1970年代いわゆるサブカルチャーに多大な影響を与えた文芸、映画、ジャズ評論家にして洒脱なエッセイスト・コラージュアーチスト、古本と散歩と喫茶店をこよなく愛した植草甚一氏(愛称J.J)の蔵書やレコードや愛蔵品、コラージュ作品や原稿を飾った「J.J’s Cafe」も会場内に仮設する。  喫茶店、小道具、ポスター、関連書籍のデザイン、執筆等に、沼田元氣氏(ぬまたげんき・東京在住、アーチスト、ポエムグラファー、著書に『ぼくは盆栽』『ぼくの伯父さんの東京案内』『ぼくの伯父さんの喫茶店学入門』など)の全面的な協力を得る。  なお、この小樽文学館内(仮設)喫茶店は、特別展終了後も一部を残し、文学館ならではの、市民のくつろげる休憩コーナーといたしたい。 問い合わせ先: 市立小樽文学館 〒047-0031 小樽市色内1-9-5   tel.fax.0134-32-2388