小樽文学館

過去の展示

次の展示 過去の展示

企画展 ザ・スピリッツ・オブ レトロ・スペース坂会館

開館時間:午前9時30分~午後5時 入場料:一般200円 小・中学生50円

ザ・スピリッツ・オブ レトロ・スペース坂会館

ザ・スピリッツ・オブ レトロ・スペース坂会館


札幌市琴似二十四軒、国道五号線沿いに、おなじみの老舗「坂ビスケット工場」。そこはかつてレストランを併設しておりました。そのレストラン跡に、いつから出来た、なにやら妖しげな館。
そここそ、札幌の不思議スポットとして全国から注目を集め始めた「レトロスペース坂会館」です。一歩、足を踏み入れれば膨大なコレクションの、レトロ・ミュージアム。
驚かされるのはコレクションの質量だけではありません。めくるめくばかりの展示の妙。博物館・美術館のありきたりな「セオリー」を一切無視し、館主の個性溢れるるばかり。

その館主こそ、坂ビスケット創設者三代目、坂一敬氏です。コレクションの大半を占める庶民の日常生活で無用となった道具類。なぜそんなコレクションに、はまりこんだのか。

「家業にも疲れ切っていたころですね。休日に電車に乗りこみました。すると向かいに座っておられたお年寄りが、私にシルバーシートに座るように声を掛けるのです」
「私はそんな年齢ではありませんでした。休日で身なりを構わずブショウひげも伸び放題なので、年寄りにみられたのかも知れません。ていねいに断ると、そのお婆さんは」
「あんたはそういうが、いまここで立っているなかでは、あんたがいちばん年だろう。それに席を空けたままだと、ほかの立っている人に、かえって迷惑だと思わんのか」
「私はガクゼンとしました。確かに、自分で思っているほど、もう若くはない。仕事に没頭しているつもりでも、確実に老いはやってくる。いたわられ、席をゆずられ、そして社会からは無用の人間とみなされていくのだ」
「翌日は冷たい雨が降っておりました。私は仕事に向かう途中、何気なく道ばたに目をやりました。粗大ゴミ捨て場、そこに傷ついたマネキン人形が何体もうち捨てられておりました。うずくまって、嗚咽しているように、みえました」
「ゴミがそんなように見えたのは、生まれて初めてのことです。私は無性に悲しく、そして何にとも知れぬ激しい怒りに襲われました」
「それからです。私が世の中から無用となり、うち捨てられていったものたちに惹かれていき、可能な限りこの世に留めておきたいと思い始めたのは」

こうして七年前にオープンした「レトロスペース・坂会館」。おおかたのお客様は、とまどわれるでしょう。学術的裏付け、折り紙付きの芸術、もっともらしい鑑定。それらとここの展示品とは一切無縁です。懐かしいオモチャから、戦争の記憶、さらにはヘンタイ的趣味の品と思われるものにまで、坂館長の凝視が注がれます。館長が信じるのは自分の眼のみ、そして脳裏に刻まれた記憶の深みに分け入るのです。

ここでご紹介できるのは、スピリットとはおこがましい。この底知れぬ魅力あるミュージアムの、ほんの一端。ここで、一瞬でも驚きを覚え、理解不能ながらも心に触れるものがあったのなら、ぜひ、本家へおいでください。坂館長らしき姿を見かけたら、ぜひお声を。ミュージアムの神髄は、人にこそあり。心から納得されるはずです。